「認知症」と「せん妄」の違いにご注意ください

今いる場所や時間が分からなくなる
少し前までは目立った異常もなく穏やかで落ち着いていたのに、何かのきっかけで自分の今いる場所や時間が分からなくなり、ちぐはぐな受け答えをする。高齢者がこのような反応を示すと、認知症が始まったのでは、と家族は不安になるものです。
しかし、時間や場所や人に関する見当づけができなくなる見当障害が表れても、すべてが認知症というわけではありません。高齢者に起こりやすい、せん妄の可能性もあります。せん妄は、病気の名前ではなく、ある異常は精神状態を指す言葉です。どの年齢層でも起こる可能性がありますが、とくに高齢者に多く見られます。主な症状としては、見当識障害や記憶障害などが挙げられます。性格に変化が起こることもあります。物静かだった人がとてもイライラしやすくなり、いつも興奮しているような状態で意味もなく歩き回ったりなどです。一方で、表情が乏しくなり、感情の変化に欠けてぼんやりとしていることが多くなる人もいます。

抗精神剤や抗うつ剤でせん妄が起こることもせん妄では、著しい集中力の低下も起こるため、新しいことを記憶しにくく、つい少し前に聞いたことや見たことを覚えていない、という症状も見られます。簡単な計算ができなくなったり、現実にはいない人や物が見えるなど、幻覚症状を訴えることも少なくありません。
このようなせん妄は、なぜ起こるのでしょうか。そのメカニズムは詳しくは分かっていませんが、脳機能が何らかの原因で低下することで起こり、脳の中の意識を保つ部分の機能異常が関わっていると考えられています。せん妄が起こる原因は、実に様々です。例えば、手術をきっかけにして起こる術後せん妄があります。手術の後、1~3日経ってから見当識障害や幻覚、妄想が現れ、数日から1週間ほど続いたのち、次第に症状が消えていくという経過を辿ります。勝手に酸素マスクを取り去ったり点滴の管を抜き取るなど、術後のケアの妨げになったり、夜間に大声を上げて暴れることもあります。手術を受けなくても、病院ではせん妄が起こりやすくなります。夜間に同室の患者さんの物音で起こされたり、医療用モニターのアラーム音やインターホンの音などで睡眠が妨げられることがよくあります。これがストレスとなり、せん妄が起こることがあります。また、抗精神剤や抗うつ剤なのど薬が原因となる場合もありますが、薬を急に止めることでせん妄が起こる場合もあるため、自己判断で服用を止めるのは厳禁です。

認知症との違いは症状が突然現れること
これまでに挙げた原因にようるせん妄は、若年層や中高年でも起こり得ます。ただし、同じ状況でも、高齢者の方がせん妄が起こりやすいのが特徴です。その理由は明らかではありませんが、脳の神経伝達物質であるアセチルコリンが関係していると考えられています。環境のストレスや薬の影響によって減少するアセチルコリンは、加齢によっても徐々に減少します。これによって、脳の機能に悪影響を及ぼし、せん妄が起こる可能性が高くなるのではないかということです。
さらに、高齢者に特有な、せん妄の引き金になる現象があります。たとえば脱水、インフルエンザ、排尿困難によオシッコが溜まり過ぎた状態、便秘、睡眠不足、引っ越しや親しい人との別れによるストレス、そして眼鏡があわずに見えにくい・補聴器が合わずに聞こえにくいなどの感覚遮断です。意外なことが引き金になるので注意が必要です。せん妄の症状は、アルツハイマーなどの認知症と似ている部分が多く、家族は不安になるでしょうが、このふたつには大きな違いがあります。それは、せん妄はある時突然始まり、数時間から数日の間に進行することです。認知症の場合、いつから始まったのか特定できないぐらい少しずつ進行していくため、ここが大きな違いです。また、認知症が徐々に悪化していくのに対して、せん妄の症状は突然強くなったり、すっかり消えたりを繰り返す変動性が大きいことも挙げられます。

時計やカレンダーを置き優しく話しかけて心を安定させる
せん妄の治療には、まず原因の究明とその除去が最優先です。せん妄の患者は正しい受け答えができなくなっているため、家族が最近の状況を詳しく説明する必要があります。診断の際に必要な情報としては、次のような内容が挙げられます。まず症状が突然始まったのか、徐々に始まったのか。そして、症状に気づいてからどのくらいの時間や日数が経過しているか。現在どのような薬を服用しているか。最近になって使用を中止した薬ははない。これらに加えて、アルコールの摂取歴を質問されることもあります。また、脳血管障害や肝機能障害がせん妄の引き金になることもあるため、血液検査やCT検査が必要になることもあります。
体の状態を調べたのち、最近になって心理的ストレスとなるような出来事がなかったかを確認したら、原因を除去することで改善を図ります。症状が激しい場合には抗精神薬などの薬が用いられることもありますが、多くの場合は環境を改善して本人が落ち着ける空間を作ることが重要になります。
自分が今どこにいるのかが分かるように、時計やカレンダーなどをよく見える場所に配置し、家族の写真などをそばに置くことなども、見当識の改善に役立ちます。分かりやすく優しく、かつ頻繁に話しかけるのも症状の改善には不可欠です。眼鏡や補聴器が必要な場合は、本人によく合ったものを、すぐに手に取れるところに置いておくのも、心の安定につながります。せん妄は、原因を明らかにして早めの対策を取れば、通常数日ほどで元の状態に戻ります。しかし、治療が遅れると慢性化し、高齢になればなるほど回復に時間がかかる傾向があります。異常を感じたら、すぐにかかりつけ医か脳神経内科などを受診するようにして下さい。

コメント (1)

Copyright © 2016 ういず安心なび All rights reserved.

SSL